docomo X AMITA 未来の種プロジェクト 〜南三陸町 森・里・海 ものがたり〜

未来の種レポート

  1. TOP > 
  2. 未来の種レポート > 
  3. 南三陸 ”福幸の郷“便り 「香るトウキに希望をかけて」

本多 清の南三陸ものがたり

南三陸 ”福幸の郷“便り 「香るトウキに希望をかけて」

南三陸 ”福幸の郷“便り 「香るトウキに希望をかけて」

今回はトウキ畑の続きのレポートです。NTTドコモの皆さんの援軍で無事に植え付けが終わったトウキの苗は、その後、すくすくと生長し…と思いきや、思わぬ難敵が現れました。
植え付けてからしばらくした後、苗が根元からぷっつりと切れてしまっている状態のものが見つかり始めたのです。それも次々と。

  • 未来への希望を託してトウキ畑を育んでくれた入谷エンジェルズのみなさん。

「シカの仕業なら足跡が残るよね」、「カラスがいたずらしてるんだろか」
正体不明の犯人に、栽培作業を中心的に担っていただいている「入谷エンジェルズ」の皆さんは首を傾げました。入谷エンジェルズは、津波で家を、あるいは職場を失い、入谷の農地で農作業に取り組んでいる女性中心のグループです。元の職は呉服屋の経営や店舗従業員、民宿のスタッフ、そして主婦など様々ですが、農作業に携わったことはほとんどありませんでした。それでも、鎌や鍬(くわ)などの農具、それに小型の耕運機の扱い方を入谷の農家の方々に教わりながら、徐々に農作業も板についてきたところです。
入谷エンジェルズとは別に、やはり津波で倒壊した福祉施設の「のぞみ福祉作業所」の利用者やスタッフたちが入谷地区で育てていたトウキの畑も、同様の被害が多発していました。

  • ネキリムシの被害にあったトウキの畑(のぞみ福祉作業所)。苗が小さなうちに被害を受けると深刻なダメージとなってしまいます。
  • のぞみ作業所の利用者とスタッフもネキリムシにめげず楽しく作業を重ねて収穫の日を迎えました。

「う~ん、これはどうもネキリムシの仕業ですね」
知らせを受けたアミタ持続研の薬草栽培研究者が犯人を突き止めました。ネキリムシとは、ある種の蛾の仲間の幼虫のことです。昼間は地中に隠れていて、夜中に野菜やハーブの葉や茎を食い荒らしてしまいます。問題は、どうやってこのネキリムシを駆除するかです。農薬を使えば被害は抑えられますが、「未来の種プロジェクト」の田畑では農薬を一切使用しない方針です。結局、すべて人の手で取り除くことになりました。
「被害にあった苗の根元近くを浅く掘るとネキリムシが見つかりますから、それを一匹一匹駆除するしかないですね」
という持続研社員のアドバイスを受けて、入谷エンジェルズやのぞみ福祉作業所の皆さんが小さな熊手で苗の根元を掘り、出てきたネキリムシを片端から駆除するという作業が続きました。

ネキリムシ騒動が収まると、今度はキアゲハの幼虫退治です。これは昼間に葉の上にいるので見つけ次第取り除くのですが、指でつまむと黄色い角を出して嫌な臭いを発するので、なかなか抵抗感のある作業です。
「小さいのはまだしも、大きいのはねえ」と眉をひそめるのは、志津川で家を流失した今野さん。3.11のときは孫たちを車に乗せ、迫る津波に追われながら逃げて助かりました。

「うちは高台にあったから流されなかったけど、津波が来てから志津川の街が消えてなくなるのに1分もかからなかったよ。こんなこと現実に起きるわけがない、夢だと思ったね」
こう語るのは、職場の店舗があった志津川の中心街が津波に襲われる様を高台から見つめていたなつ子さん。住み慣れた家が、街が、そして大切な人の命が、一瞬にして巨大な津波の激流の中に消えていく様を目の当たりにした南三陸の方々の話を聞くと、ただ呆然とするばかりです。ほんの数十分前まで、平和で、静かな海と森に囲まれた美しい街に、それぞれの営みと幸せが日常の時を送っていたのです。

「誰も、昔を取り戻せるとは思ってないし、取り戻したいとも思ってないけどね。でも、今から未来を作っていくことはできると思うから。こうして仲間と一緒にいると、いろんな話もできるしね」
経営していた呉服店を失った小野寺さんが語ります。夏の日差しの中で青々と育っていくトウキの畑を眺めていると、未来に夢を感じられるという言葉が印象に残りました。

  • 見事に育ったトウキの畑。しっかり定着すると収穫後の株からもまた新たな茎葉が生えてきます。
  • 苗の植え付け時に続き、災害ボランティアセンターから派遣されてきたNTTドコモの皆さんが収穫作業を応援してくれました。

キアゲハを退治し、雑草を刈り払う作業を続け、秋の収穫の際には再びNTTドコモの皆さんがボランティア支援で大いに活躍してくれました。収穫されたトウキは乾燥させた後、リーフパウダーやピューレなどに加工され、料理に使うハーブスパイスとしての活用が見込まれています。
「いろんな料理に使われて、新しい味わいや、楽しい食卓が生まれると嬉しいね。そうしたら、私たちももっともっとがんばれるしね」
勤めていた民宿を津波で失った真由美さんが笑顔で語ります。始まったばかりの小さな取り組みですが、未来への希望をかけ、育もうとする想いに、ささやかな手ごたえが訪れようとしています。